前編では、
- 半導体とは何か
- なぜシリコンが使われるのか
- ドーピングとは何か
- n型半導体とp型半導体の違い
について解説しました。
前編で特に重要だったのは、
n型=電子が多い半導体
p型=正孔が多い半導体
という違いです。
しかし、n型半導体とp型半導体をそれぞれ作っただけでは、まだCPUやメモリのような電子回路にはなりません。
重要なのは、
n型とp型を組み合わせること
です。
n型とp型を接合すると、
pn接合
と呼ばれる構造ができます。
このpn接合を利用すると、
- 電流を一方向へ流しやすくする
- 電流を流す・止める
- 電気信号を制御する
といったことが可能になります。
この記事では、
- pn接合とは何か
- 空乏層はなぜできるのか
- ダイオードが一方向に電流を流す仕組み
- トランジスタとは何か
- 半導体で0と1を表す仕組み
- CPUやメモリへどうつながるのか
を初心者向けに順番に解説します。

pn接合とは?
pn接合とは、
p型半導体とn型半導体を接合した構造
です。
前編で説明したように、
n型半導体には自由電子が多く、
p型半導体には正孔が多く存在します。
この2つを接触させると、境界付近で電子と正孔が移動します。
イメージとしては、
p型|n型
の境界で、
n型側の電子
→ p型側へ移動
p型側の正孔
→ n型側へ移動
するような状態です。
そして電子と正孔が出会うと、
再結合
が起こります。
その結果、接合部付近では自由に動ける電子や正孔が少ない領域ができます。
これが、
空乏層
です。
空乏層とは?
空乏層とは、
自由に動ける電子や正孔が少なくなった領域
です。
「空乏」という名前の通り、
電流を運ぶキャリアが乏しくなった場所
と考えると分かりやすいです。
ただし、
原子や物質そのものがなくなって空洞になっているわけではありません。
ここは初心者が誤解しやすいポイントです。
なくなっているのは、
自由に動ける電子や正孔
です。
なぜ空乏層が広がり続けないの?
n型側には電子が多く、p型側には正孔が多いため、
「電子と正孔がずっと移動し続けるのでは?」
と思うかもしれません。
しかし実際には、ある程度移動すると止まります。
n型側から電子が移動すると、n型側には動けない正のイオンが残ります。
反対にp型側では、負のイオンが残ります。
すると接合部に、
電子や正孔の移動を妨げる電界
が生まれます。
この電界によって、さらに電子や正孔が移動することが難しくなります。
その結果、
一定の幅を持った空乏層
が形成されます。
つまり、
電子・正孔が移動
↓
固定されたイオンが残る
↓
内部に電界ができる
↓
それ以上の移動を妨げる
という流れです。
pn接合が重要な理由
pn接合の面白いところは、
外部から加える電圧の向きを変えると、電流の流れやすさが大きく変わること
です。
この性質を利用した代表的な半導体デバイスが、
ダイオード
です。
ダイオードとは?
ダイオードとは、
電流を一方向へ流しやすくする半導体デバイス
です。
基本的なダイオードは、
p型半導体とn型半導体を接合したpn接合
からできています。
しかし、
「pn接合を作っただけで、なぜ一方向にしか流れなくなるの?」
と思う方もいるでしょう。
ポイントは、
空乏層の広がり方
です。
順方向では電流が流れやすくなる
p型側をプラス、
n型側をマイナス
につなぐことを、
順方向バイアス
と呼びます。
外部から電圧をかけることで、pn接合内部の電界による障壁が弱まり、空乏層が狭くなります。
すると、
n型側の電子
と
p型側の正孔
が接合部を越えて移動しやすくなります。
その結果、
電流が流れやすくなります。
初心者向けには、
順方向=空乏層が狭くなる → 電流が流れやすい
と覚えるとよいでしょう。
逆方向では電流が流れにくくなる
今度は反対に、
p型側をマイナス、
n型側をプラス
につなぎます。
これを、
逆方向バイアス
と呼びます。
この場合、電子と正孔が接合部から離れる方向へ引かれます。
すると、
空乏層が広がります。
電流を運ぶキャリアが接合部を通りにくくなるため、
電流はほとんど流れません。
つまり、
順方向
→ 空乏層が狭い
→ 電流が流れやすい
逆方向
→ 空乏層が広い
→ 電流が流れにくい
という関係です。
ダイオードは完全な「一方通行」ではない
ダイオードを、
「片方向には必ず流れ、反対方向には絶対に流れない部品」
と覚えることがあります。
初心者向けのイメージとしては便利ですが、厳密には少し違います。
順方向でも、ある程度の電圧を加えなければ十分な電流は流れません。
また逆方向でも、非常に小さな漏れ電流が流れることがあります。
さらに大きな逆電圧を加えると、絶縁破壊が起きる場合もあります。
そのため正確には、
ダイオード=電流を一方向へ流しやすく、反対方向へ流れにくくするデバイス
と考えるのがおすすめです。
ダイオードは何に使われる?
ダイオードの一方向へ電流を流しやすい性質は、
- 整流
- 逆流防止
- 電圧保護
- 発光
- 光検出
など、さまざまな用途に利用されます。
例えば家庭のコンセントから得られる交流を、電子機器で使いやすい直流へ変換するときにもダイオードが使われます。
またLEDも、
発光ダイオード
の一種です。
ではトランジスタとは?
pn接合によって、
電流が流れやすい方向と流れにくい方向を作れる
ことが分かりました。
しかしコンピューターでは、
電気を流す・止める状態を自由に切り替える
必要があります。
そこで重要になるのが、
トランジスタ
です。
トランジスタとは、
小さな電気信号によって、大きな電流や別の電流を制御する半導体デバイス
です。
使い方によって、
- スイッチ
- 増幅
などの役割を持ちます。
CPUやGPU、メモリなどでは特に、
非常に小さなスイッチ
として大量のトランジスタが使われています。
トランジスタにはいくつか種類がある
トランジスタには、
- バイポーラトランジスタ
- MOSFET
など複数の種類があります。
現在のCPUやGPUなどの集積回路を理解するときに特に重要なのが、
MOSFET
です。
MOSFETは、
Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor
の略です。
名前は難しく見えますが、初心者の段階では、
ゲートへ加える電圧によって、電流を流すか止めるかを制御するトランジスタ
と理解すれば十分です。
MOSFETの基本構造
MOSFETには大きく、
- ソース
- ドレイン
- ゲート
という3つの端子があります。
簡単に役割を整理すると、
ソース
→ 電流の入口側
ドレイン
→ 電流の出口側
ゲート
→ 電流を流す・止める状態を制御する
と考えると分かりやすいです。
ゲートへ適切な電圧を加えることで、ソースとドレインの間に電流が流れる状態を作ります。
ゲートは直接電流を押しているわけではない
ここも初心者が混乱しやすいポイントです。
ゲートから大量の電子をソースへ押し込み、
その力で電流を流しているわけではありません。
ゲートへ電圧を加えることで、
半導体内部の電界を変化させ、ソースとドレインの間に電流が流れやすい状態を作ります。
つまりMOSFETは、
電圧を使って電気の通り道を作るスイッチ
と考えると理解しやすいです。
トランジスタで0と1を表す
コンピューターでは、情報を主に、
0
と
1
で扱います。
トランジスタをスイッチとして考えると、
OFF状態
→ 0
ON状態
→ 1
のように対応させることができます。
実際のデジタル回路では電圧範囲によって0と1を判断し、単純に「電流がある=1」というだけではありません。
しかし初心者の段階では、
トランジスタのON/OFFを使って0と1を表現できる
という理解で十分です。
1個のトランジスタだけでは計算できない
「トランジスタが0と1を表せるなら、それだけでCPUになるの?」
というと、そうではありません。
複数のトランジスタを組み合わせることで、
論理回路
を作ります。
例えば、
- AND
- OR
- NOT
などの基本的な論理演算を行う回路があります。
さらに、それらを大量に組み合わせることで、
- 足し算
- 引き算
- 比較
- 条件判断
- データ記憶
などが可能になります。
つまり、
トランジスタ
↓
論理回路
↓
複雑な回路
↓
CPU・GPUなど
という流れです。
なぜトランジスタを小さくするの?
半導体業界では、
微細化
という言葉がよく使われます。
これはトランジスタなどの構造を小さくすることです。
トランジスタを小さくすると、同じ面積のチップへより多くのトランジスタを搭載できます。
例えば同じ面積に、
100万個
より、
1億個
のトランジスタを入れられれば、より複雑な計算回路を作ることができます。
また微細化によって、性能や消費電力などの改善につながる場合があります。
ただし、小さくすればするほど製造は難しくなります。
そのため、
- EUV露光
- 高度なエッチング
- GAA
- 新しい材料
などの技術が重要になっています。
CPUはトランジスタの集まり
CPUはよく、
コンピューターの頭脳
と表現されます。
しかし内部を見ると、その基本となっているのは大量のトランジスタです。
1個1個のトランジスタは、
ONかOFFかを切り替える
という比較的単純な動作をします。
しかし、それを非常に大量に組み合わせることで、
- 数値計算
- プログラム実行
- データ処理
- 機器の制御
といった高度な動作が可能になります。
つまり、
非常に単純なスイッチを大量に組み合わせて、高度な処理を実現している
ことが半導体の面白いところです。
メモリにもトランジスタが使われる
トランジスタはCPUやGPUだけに使われているわけではありません。
メモリ半導体でも重要です。
例えばDRAMでは、基本的にトランジスタとキャパシタを組み合わせたメモリセルを利用します。
SRAMでは、複数のトランジスタを組み合わせて情報を保持します。
NANDフラッシュでも、トランジスタ構造を利用してデータを記憶します。
つまり同じトランジスタでも、
どう組み合わせるか
によって、
- 計算する半導体
- 記憶する半導体
など、異なる役割を持たせることができます。
ダイオードとトランジスタの違い
ここで整理しておきましょう。
| 項目 | ダイオード | トランジスタ |
|---|---|---|
| 基本的な役割 | 電流を一方向へ流しやすくする | 電流を制御する |
| 主な用途 | 整流・保護・発光など | スイッチ・増幅など |
| デジタル回路 | 補助的に使用 | 中心的な役割 |
| CPU・GPUとの関係 | 主役ではない | 大量に搭載される |
初心者の方は、
ダイオード=電流の方向を制御
トランジスタ=電流のON/OFFなどを制御
と整理すると理解しやすいでしょう。
「半導体」と「半導体チップ」は同じ意味?
日常会話では、
「半導体不足」
「半導体を作る」
などのように、「半導体」という言葉が製品そのものを指す場合があります。
しかし厳密には、
半導体=シリコンなどの材料
を意味する場合と、
半導体デバイス・半導体チップ=その性質を利用して作った電子部品
を意味する場合があります。
例えば、
シリコン
↓
n型・p型領域を形成
↓
トランジスタを作る
↓
大量のトランジスタと配線を形成
↓
CPUなどの半導体チップ
という関係です。
記事やニュースを読むときは、
材料としての半導体なのか、製品としての半導体なのか
を意識すると理解しやすくなります。
前編と後編をつなげるとどうなる?
ここまでの内容を、前編から一本につなげてみましょう。
① シリコンを用意する
↓
② ドーピングでn型・p型を作る
↓
③ n型・p型を組み合わせる
↓
④ pn接合ができる
↓
⑤ 電流の流れを制御できる
↓
⑥ ダイオードやトランジスタを作る
↓
⑦ トランジスタを大量に組み合わせる
↓
⑧ CPU・GPU・メモリなどになる
これが、
半導体材料が電子機器を動かす部品になるまでの基本的な考え方
です。
初心者が特に混同しやすい3つのポイント
最後に、ここまでの内容で特に誤解しやすい点を整理します。
① n型とp型はマイナス・プラスに帯電しているわけではない
n型では電子、p型では正孔が主なキャリアになります。
材料全体が常に負や正に帯電しているという意味ではありません。
② 空乏層は空洞ではない
空乏層は、
自由電子や正孔が少ない領域
です。
シリコン原子そのものがなくなっているわけではありません。
③ トランジスタは電気を作っているわけではない
トランジスタは、
外部から供給された電流を流す・止めるなどして制御する部品
です。
電気そのものを生み出しているわけではありません。
この3点を理解しておけば、半導体の仕組みをかなり正確に捉えられます。
この記事で一番覚えてほしいこと
前編では、
半導体は電気の流れ方をコントロールしやすい材料
と説明しました。
後編では、その性質を実際のデバイスへ利用します。
重要なのは、
n型とp型を作ること自体が目的ではない
ということです。
n型とp型を組み合わせ、
電流を思い通りに制御できる構造を作ること
が目的です。
そして、その代表例が、
ダイオード
と
トランジスタ
です。
特にトランジスタを大量に組み合わせることで、CPU・GPU・メモリなどの高度な半導体製品が作られています。
まとめ
今回は、n型半導体とp型半導体を組み合わせたときに、どのように半導体デバイスとして機能するのかを解説しました。
重要なポイントは、
- n型とp型を接合するとpn接合ができる
- pn接合付近には空乏層が形成される
- 順方向では空乏層が狭くなり、電流が流れやすくなる
- 逆方向では空乏層が広くなり、電流が流れにくくなる
- pn接合を利用した代表的なデバイスがダイオード
- トランジスタでは電流の流れを制御できる
- トランジスタのON/OFFを利用してデジタル回路を作れる
- 大量のトランジスタを組み合わせることでCPUやGPUなどが作られる
ということです。
半導体を理解するときは、
シリコン
→ n型・p型
→ pn接合
→ 電流制御
→ トランジスタ
→ 電子回路
という順番で考えると、個別の用語が一つの流れとしてつながります。
ここまで理解できれば、
「なぜシリコンからCPUやメモリを作れるのか」
という半導体の基本的な仕組みが見えてきます。
次は、CPU・GPU・DRAM・NANDなどがそれぞれどんな役割を持つのか、
「半導体の種類」
について学ぶと、半導体全体の理解がさらに深まります。


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