なぜ味の素が半導体に?ABFの役割と強みを初心者向けに解説

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食品で知られる味の素グループは、パソコンやAIサーバーに使われる半導体を、材料の分野から支えています。その代表的な製品が、味の素ビルドアップフィルム〈ABF〉です。

半導体では、計算を行うチップを作るだけでなく、そのチップを周囲の部品へ正しく接続することも重要です。ABFは、この接続を支えるパッケージ基板の中で使われます。

この記事では、味の素と半導体の接点から、ABFが使われる場所、絶縁と配線の仕組み、材料技術の強み、AIとの関係までを順に解説します。

半導体との接点

味の素グループの電子材料事業では、味の素ファインテクノ〈AFT〉が開発・製造・販売の中核を担っています。ABFは、同事業の主力となる半導体パッケージ向けの材料です。[1]

半導体産業には、チップを設計する会社、製造する会社、装置を作る会社、材料を供給する会社など、さまざまな役割があります。味の素グループは、電子材料を供給する立場で半導体の高性能化に関わっています。

アミノ酸研究から材料へ

味の素の公式な開発史によると、1970年代にアミノ酸に関する知見を応用したエポキシ樹脂の研究を進め、1990年代にその技術を半導体基板向けの絶縁材料へ展開しました。ABFは1999年に採用・発売が始まりました。[2][3]

エポキシ樹脂は、電子部品の接着や絶縁などにも使われる樹脂です。材料をどのように組み合わせ、どのように固めるかによって、加工のしやすさや熱に対する性質が変わります。

アミノ酸研究から得た化学の知見を、別の用途に合う材料へ発展させたことが、食品と半導体を結ぶ接点になっています。

ABFとは?

ABFは、半導体パッケージ基板の配線層の間を絶縁する、フィルム状の材料です。 ABFはAjinomoto Build-up Filmの略称です。まず、チップと基板の位置関係を整理しましょう。[4]

部分主な役割
半導体チップCPUやGPUなどとして、計算や情報処理を行う
パッケージ基板チップの細かな接続部と、外部の基板との間を電気的につなぐ
マザーボードなどの基板半導体パッケージやメモリ、ほかの部品を載せ、機器全体をつなぐ

ABFが使われるのは、このうちパッケージ基板の絶縁層です。パッケージ基板には、信号や電力を運ぶ銅配線が何層にも配置されています。その配線同士が意図せず接触しないように隔てるのが、絶縁材料の役割です。

小さな接続を外へつなぐ

半導体チップの接続部は細かく、そのまま機器の基板へつなぐことは簡単ではありません。パッケージ基板は、多層の配線を使って接続を引き回し、チップと外部回路の間をつなぎます。[2][5]

チップの性能を機器の中で生かすには、この接続部分も安定して働く必要があります。ABFは、そのための配線構造を作る材料の一つなのです。

なお、「ABF」と「ABF基板」は区別すると理解しやすくなります。ABFは材料の製品名で、ABF基板という場合は、一般にその材料を使ったパッケージ基板を指します。基板には、ABFに加えて銅配線など、複数の材料が組み合わされています。

絶縁と配線の仕組み

細かな配線を一つの面だけに並べようとすると、配置できる場所が限られます。そこで、絶縁層と配線層を順番に積み上げて、複数の層に配線を分けます。このように層を積み重ねる考え方が、ビルドアップです。[6][7]

流す場所と隔てる場所

多層の基板を建物に例えると、各階の配線が通路、絶縁層が階を隔てる床、層間をつなぐビアが階段に相当します。必要な場所だけをつなぐことで、複雑な経路を限られた面積に収められます。

実際の基板では、電流は銅配線などの導体を通ります。ABFは、その周囲や配線層の間で絶縁を担います。

構成要素働き
銅配線信号や電力の通り道になる
ABFなどの絶縁層配線同士を電気的に隔てる
ビア絶縁層に設けた穴を利用し、銅などで配線層を接続する

ビアの位置や接続状態も重要です。イビデンの公式製品解説でも、小径の穴であるマイクロビアを層間接続の重要な要素として挙げ、レーザー加工とめっきなどの技術を紹介しています。[5]

層を積み上げる流れ

代表的には、次のような処理を繰り返して配線構造を作ります。材料の種類や基板構造によって、具体的な工程は異なります。

  • 配線を作った面に絶縁フィルムを重ね、加熱などで層を形成する。
  • レーザーなどで、層間を接続するための小さな穴を開ける。
  • めっきなどで銅を形成し、穴の接続部と新しい配線を作る。
  • さらに絶縁層と配線層を重ね、必要な層数へ作り込む。

フィルムを貼り合わせる処理を「ラミネート」と呼びます。配線形成には、薄い銅の層をもとに必要な部分へ銅を成長させるセミアディティブ法などが使われます。[6][8]

ここで、絶縁層の厚さや表面の状態が不均一だと、次の細かな加工が難しくなります。銅配線を作る技術と、その下地となる絶縁材料の性質は、密接に関係しています。

味の素の強み

ABFの強みは、電気を通しにくいことに加え、細かな基板を安定して作るための性質を組み合わせている点にあります。

樹脂と微粒子の設計

味の素の公式資料では、ABFの開発にエポキシ樹脂、硬化剤、無機フィラーを組み合わせる技術が使われたと説明しています。フィラーは、材料の性質を調整するために加える微粒子です。[2]

材料を配合して均一に分散させ、薄いフィルムに加工するには、それぞれの成分の働きを合わせて考える必要があります。

フィルム状にすることにも意味があります。味の素ファインテクノは、液状材料を塗る場合に生じる気泡や印刷ムラへの対応を、ABFの特長として紹介しています。扱いやすい形で供給することも、基板製造を支える材料技術です。[9]

微細配線と熱への対応

配線が細くなると、表面のわずかな凹凸や銅との密着性が、加工結果へ影響します。また、高速な信号を伝える用途では、絶縁材料の中で信号のエネルギーが失われにくいことも求められます。[8]

さらに、温度が変わると材料は膨張・収縮します。チップ、銅、樹脂などが組み合わされたパッケージでは、その変化の違いが反りや接続部の負担につながります。熱膨張を抑えることや、熱に耐えて性能を保つことも重要です。

絶縁性、微細配線を作りやすい表面、熱に対する安定性、信号の伝わりやすさは、それぞれ関係しています。一つの性質だけを最大にするのではなく、用途に合う組み合わせが必要です。高機能パッケージ向け材料の技術論文でも、基板構造に応じた複数の要求特性が整理されています。[8]

顧客と一緒に作り込む

味の素グループは、2026年6月の事業説明会で、顧客の開発初期から性能や価格をすり合わせ、用途に応じたABFを設計する仕組みを説明しています。[1]

例えば、基板の構造や加工条件が変われば、材料に求められる性質も変わります。材料を供給する側と、実際に加工する側が一緒に検証することで、製品として使える条件を探ります。

材料そのものの設計と、顧客の工程に合わせて使いこなす技術の蓄積が、味の素の半導体事業を理解するポイントです。

高いシェアの読み方

味の素グループの「Fact Book 2026」では、ABFの市場シェアを95%以上と説明しています。これは同社が公表するABF関連市場の数値で、半導体産業全体に占める味の素のシェアを意味するものではありません。[4]

企業の強みを見るときは、数字の大きさとともに、「どの材料の、どの用途で採用されているか」を確認することが大切です。

AIとのつながり

AIサーバーでは、CPU、GPU、特定用途の計算を行うASICなど、複数の半導体が使われます。これらを機器の中で働かせるには、チップと外部をつなぐパッケージ基板も必要です。

味の素グループは、高性能半導体の進化に伴って、パッケージ基板の大型化・多層化が進み、基板あたりのABF使用量が増えると説明しています。[1]

面積と層数が関係する

絶縁フィルムを使う面積が広がり、積み重ねる層も増えれば、一つの基板で必要になる材料の量も増える方向に働きます。ただし、実際の使用量は基板の設計や加工方法などによって変わります。

この関係から、AI向け半導体の需要を見るときは、チップの個数だけでなく、その周囲にある基板の面積や配線構造にも目を向けると、材料事業とのつながりが分かります。

ABFがAIを支えるという話は、計算機能そのものに加え、計算するチップをつなぐ部分にも技術が必要だということです。なお、ABFはパソコン、ネットワーク機器、ゲーム機などにも使われています。[1]

今後の事業展開

味の素は2026年5月7日、味の素ファインテクノを通じた岐阜県可児市の新工場用地取得を発表しました。ABFの生産工場を建設する計画で、発表時点では2028年着工、2032年稼働開始を予定しています。[3]

項目2026年5月7日の発表内容
場所岐阜県可児市
対象製品半導体パッケージ向け層間絶縁材料ABF
着工予定2028年
稼働開始予定2032年
主な目的生産能力の拡大と安定供給体制の強化

供給量と安定性を高める

同発表では、川崎市の本社工場、群馬工場に続く第三の生産拠点として位置付けています。既存工場から一定の距離を取ることで、災害などに備えるBCP〈事業継続計画〉の面でも供給体制を強化する方針です。[3]

電子材料は、必要な性能を実現することと、必要な量を継続して届けることの両方が求められます。材料供給が止まれば、それを使う基板や機器の製造にも影響するためです。

新工場の着工・稼働時期は将来の計画です。記事で事業の動きを追う際は、発表日を確認し、実際の建設や稼働の進捗と分けて読む必要があります。

まとめ

味の素グループは、ABFというフィルム状の絶縁材料を通じて、半導体産業を支えています。ABFが使われるのはパッケージ基板の絶縁層で、銅配線を隔てながら、多層の配線構造を作ることに役立ちます。

その強みは、樹脂と微粒子の設計、フィルム化、微細加工への対応、顧客との継続的な開発を組み合わせていることです。AI向け半導体との関係も、チップの計算能力と、その外側の接続を支える材料の両方から見ると理解しやすくなります。

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参考資料

確認日:2026年11月1日。企業の発表・説明は各資料の公表時点に基づきます。技術説明は代表的な構成を対象としており、材料の品種や基板構造によって工程・要求特性は異なります。

  1. 味の素グループ:電子材料事業の成長戦略〈2026年6月30日、AFTの役割、個別の協働開発、AI・大型化・多層化との関係〉
  2. 味の素グループ:味の素ビルドアップフィルム〈ABF〉〈開発経緯、樹脂・硬化剤・フィラー、加工技術との関係〉
  3. 味の素:味の素㈱、味の素ファインテクノ㈱が新工場用地を取得〈2026年5月7日、発売年、用途、新工場の目的・予定〉
  4. 味の素グループ:Fact Book 2026〈層間絶縁材料としての位置付け、同社公表の市場シェア〉
  5. イビデン:ICパッケージ基板〈パッケージ基板、微細配線、マイクロビアと加工技術〉
  6. 半導体歴史館:ビルドアップ材料〈ビルドアップ工法と絶縁材料のフィルム化の背景〉
  7. 伸光製作所:ビルドアッププリント配線板〈絶縁層・導体層の積層、ビアによる層間接続。一般的な構造の確認に使用〉
  8. 鶴井一彦:高機能パッケージ向け層間絶縁材料の要求特性と応用展開〈エレクトロニクス実装学会誌、25巻3号、204–209頁、2022年。配線形成、信号損失、低熱膨張などの技術的背景〉
  9. 味の素ファインテクノ:層間絶縁材料〈製品の位置付け、液状材料との加工上の比較〉

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