スマートフォンの「メモリ8GB」と「ストレージ256GB」は、どちらも容量を表しています。しかし、同じ場所の容量ではありません。処理中に使うデータを置く場所と、写真やアプリを保存しておく場所には、役割の違う半導体が使われています。
それらを支えるのが、データを記憶する「メモリ半導体」です。CPUやGPUが計算するためにも、必要なデータを記憶し、取り出す仕組みが欠かせません。
この記事では、メモリの役割と分類、情報を記憶する仕組み、機器内での使い分け、性能の見方、大容量化の工夫、AIとHBMの関係を順番に説明します。
メモリの役割
メモリ半導体は、プログラムや写真、計算途中の値などを記憶する半導体です。計算・判断・制御を担うロジック半導体と組み合わせて使います。
例えば、CPUが表計算をするときには、計算する数値や途中の結果を置く場所が必要です。一方で、完成したファイルは、電源を切った後も残しておきたいはずです。この二つには、求められる性質が異なります。
メモリは、何を、どれだけ速く、どれだけ長く保存したいかによって使い分けます。
メモリとストレージ
機器の仕様で「メモリ」と書かれている場合は、通常、処理中のデータを一時的に置くDRAMなどを指します。「ストレージ」は、アプリやファイルを保存するSSDなどを指します。[5]
一方、「メモリ半導体」という分類には、SSDの記録に使うNANDフラッシュも含まれます。機器の仕様での呼び方と、半導体としての分類を分けて考えると整理しやすくなります。
メモリの分類
最初に注目したいのは、電源を切った後もデータを保持できるかどうかです。
| 分類 | 電源を切った後 | 代表例 |
|---|---|---|
| 揮発性メモリ | データを保持できない | SRAM、DRAM |
| 不揮発性メモリ | データを保持できる | NANDフラッシュ、NORフラッシュなど |
揮発性は「きはつせい」と読みます。普段の言葉で言えば、電源を切ると内容が失われる性質です。DRAMやSRAMは、高速にデータを読み書きする場所で使われます。[1][3]
NANDやNORは、フラッシュメモリに含まれる不揮発性メモリです。この記事では、大容量のデータ保存に広く使われるNANDを中心に見ていきます。[4]

HBMはDRAMの仲間
HBMは、DRAMを積み重ね、広い接続で大量のデータをやり取りするメモリです。SRAM・DRAM・NANDとは分類の視点が異なり、HBMはDRAMの一種として位置付けられます。[9]
| 名前 | 位置付け | 主に使われる場所 |
|---|---|---|
| SRAM | 揮発性メモリ | CPUやGPUのキャッシュなど |
| DRAM | 揮発性メモリ | 機器のメインメモリなど |
| NANDフラッシュ | 不揮発性のフラッシュメモリ | SSD、スマートフォンのストレージなど |
| HBM | DRAMの一種 | AI向けGPUなどの近く |
CPUやGPUの内部に組み込まれるSRAMもあります。メモリは、独立した黒い部品として基板に載っているものだけではありません。[1]
記憶する仕組み
コンピューターのデータは、0と1の組み合わせで表されます。その情報を、回路の状態や電荷の違いに対応させて保持するのがメモリです。
記憶の基本となる小さな単位を「メモリセル」と呼びます。ここでは、代表的なセルの考え方を比べてみましょう。
SRAMは回路で保つ
SRAM〈Static Random Access Memory〉は、複数のトランジスタを組み合わせた回路で情報を保持します。トランジスタは、電流を流す・止めるなどの制御をする部品です。
互いの状態を保つ回路を使うことで、電源が供給されている間は0か1の状態を維持できます。DRAMのような定期的なリフレッシュは不要です。ただし、電源を切れば情報は失われます。[2]
高速なアクセスに向く一方、1bitを記憶する回路が大きくなりやすいため、特に素早く使いたいデータを置く場所に適しています。
DRAMは電荷で保つ
DRAM〈Dynamic Random Access Memory〉の代表的なセルは、1個のトランジスタと1個のキャパシタで構成されます。「1T1C」と呼ばれる構造です。
キャパシタは電荷をためる部品で、その電荷の状態に情報を対応させます。トランジスタは、読み書きの際にセルを配線へつなぐスイッチの役割を担います。
ただし、蓄えた電荷は少しずつ漏れていきます。そこで、保持しているデータを定期的に読み取り、書き直して保つ「リフレッシュ」が必要になります。[3]
NANDは電荷を閉じ込める
NANDフラッシュでは、絶縁体に囲まれた電荷蓄積層へ電子を出し入れします。この電子が残ることで、電源を切った後もデータを保持できます。
電子の量が変わると、セルに電流が流れ始める条件も変わります。その境目となる電圧を「しきい値電圧」と呼び、その違いを読み分けてデータを取り出します。[4]
DRAMもNANDも電荷を使いますが、保持する構造と読み出し方が異なります。「両方とも電気をためるので同じ仕組み」と捉えないことが大切です。
機器内の使い分け
パソコンで保存済みの文書を開き、編集し、再び保存する場面を考えてみましょう。
- 開くとき: SSDなどから必要なプログラムやデータを読み出し、DRAMへ置きます。
- 処理するとき: CPUはキャッシュなどを使いながら、必要なデータを取り出して計算します。
- 保存するとき: 編集した内容をストレージへ書き込み、電源を切った後も残せるようにします。[1][5]
これは基本的な役割を示した例です。実際には、必要な部分を順次読み込んだり、既にキャッシュされたデータを使ったりします。
近くには速い記憶
キャッシュは、再び使う可能性が高いデータなどを、素早く取り出せる場所へ置く仕組みです。CPU内部などのキャッシュには、SRAMが使われます。
一方、メインメモリには、大きな作業領域を用意しやすいDRAMが使われます。その外側では、NANDを使うSSDが、ファイルなどを保存します。[1]
こうした、性質の違う記憶領域を組み合わせる考え方を「メモリ階層」と呼びます。
| 記憶の場所 | 重視すること | 代表的な半導体 |
|---|---|---|
| CPUなどのキャッシュ | 必要なデータへ素早くアクセスする | SRAM |
| メインメモリ | 処理中のデータを多く置く | DRAM |
| SSDなどのストレージ | 電源を切った後も大量に保存する | NANDフラッシュ |

SSDは装置の名前
NANDは記憶する半導体の種類、SSDはそれを使った記憶装置です。SSDには、NANDを管理するコントローラなども含まれます。製品によっては、管理用にDRAMも搭載されます。[1]
そのため、「SSDとDRAM」「NANDとメインメモリ」などを比べるときは、装置の名前と半導体の種類を混ぜていないか確認しましょう。
性能を比べる軸
メモリの性能を「速い・遅い」だけで比べると、役割の違いを見落としやすくなります。まずは、次の三つを分けて考えます。[6][10]
| 指標 | 何を表す? | 単位の例 |
|---|---|---|
| 容量 | どれだけのデータを保持できるか | GB、TB |
| 帯域幅 | 一定時間にどれだけのデータを転送できるか | GB/s、TB/s |
| 遅延 | データを要求してから受け取り始めるまでの待ち時間など | nsなど |
例えば、容量を増やしても、データを送る経路が同じなら帯域幅まで同じ割合で増えるとは限りません。帯域幅が大きくても、小さなデータ一つを受け取るまでの待ち時間が、必ず短くなるわけでもありません。
「たくさん置ける」「一度に多く運べる」「待ち時間が短い」は、別の性質です。
容量だけで選ばない
処理中のデータが入り切らなければ、容量不足が問題になります。大量のデータを繰り返し動かす処理では、帯域幅も重要です。細かなデータを次々と参照する処理では、遅延も効いてきます。
さらに、消費電力、コスト、NANDの書き換え耐久性なども含めて使い分けます。一つの指標だけで、すべての用途に最適なメモリを決めることはできません。[1][7]
大容量化の工夫
メモリを大容量にするには、限られた面積へより多くの情報を記憶する工夫が必要です。NANDを例に、「セルの数」と「セル一つの情報量」を増やす方法を見てみましょう。
多値化で情報を増やす
一つのセルで、しきい値電圧の範囲をより細かく読み分ければ、0と1の二つだけでなく、複数bitの組み合わせを記憶できます。
| 方式 | 1セルの情報量 | 区別する状態数 |
|---|---|---|
| SLC | 1bit | 2 |
| MLC〈一般的な2bitの意味〉 | 2bit | 4 |
| TLC | 3bit | 8 |
| QLC | 4bit | 16 |
3bitを表すには、000から111までの8通りを区別する必要があります。つまり、TLCは「三つの状態」を読み分ける方式ではありません。
多値化すると容量を増やしやすくなる一方、近接した状態を安定して読み書きする難しさが増します。性能や書き換え耐久性との兼ね合いを考え、用途に応じて使います。[7]
3D化でセルを増やす
平面上でセルを小さくすることに加え、セルの構造を縦方向へ多層化するのが「3D NAND」です。同じ面積でも、より多くのセルを配置することを目指します。[8]
多値化は、一つのセルの情報量を増やす工夫。3D化は、単位面積あたりのセル数を増やす工夫です。両方を組み合わせて、大容量化を進めています。
積層の意味を分ける
3D NANDとHBMは、どちらも「積層」という言葉が出てきますが、積み重ねているものと主な狙いが違います。[8][9]
| 比較する点 | 3D NAND | HBM |
|---|---|---|
| 立体化・積層するもの | 記憶セルの構造 | 複数のDRAMダイ |
| 主な狙い | 記憶密度を高め、大容量にする | 狭い領域で広い接続を作り、高帯域にする |
| 電源を切った後 | データを保持できる | データを保持できない |
ダイは、ウエハから切り出す一つ一つのチップを指します。NANDダイを複数枚まとめたパッケージもありますが、それと3D NANDのセル構造の多層化は区別して考えます。[6]

AIとHBM
AIの計算を担うGPUも、データを受け取らなければ処理を進められません。計算能力に対してデータの供給が足りないと、GPUに待ち時間が生まれます。
そこで重要になるのが、HBM〈High Bandwidth Memory〉です。日本語では、高帯域幅メモリなどと呼ばれます。AI向けGPUなどと組み合わせ、大量のデータをやり取りします。[9]
広い接続で運ぶ
HBMは、複数のDRAMダイを積層し、TSV〈シリコン貫通電極〉などで接続します。TSVは、シリコンを貫く縦方向の電気接続です。[10]
GPUなどの近くへ実装し、多数の信号線を並列に使うことで、高い帯域幅を実現します。道路に例えるなら、車線を増やし、多くの車を同時に通すイメージです。
ポイントは、「一つのデータを取り出す時間」と「大量のデータを送れる量」を分けることです。HBMの特徴は、特に後者の高い帯域幅にあります。[9]
AIでも役割分担する
HBMが使われるAIシステムでも、すべての記憶をHBMで置き換えるわけではありません。GPU内部のキャッシュ、CPU側のメインメモリ、データ保存用のSSDなどが、それぞれの仕事を担います。
HBMがもたらす効果は、AIモデルの大きさ、必要なデータ量、計算とデータ移動のバランスによって変わります。AIを支えるのは、計算するチップと、性質の異なるメモリの組み合わせです。

メモリのまとめ
- SRAMは、回路の状態を保つメモリです。 素早いアクセスが必要なキャッシュなどで使われます。
- DRAMは、キャパシタの電荷で記憶します。 リフレッシュが必要で、メインメモリなどに使われます。
- NANDは、電源を切っても記憶を保持します。 多値化や3D化によって大容量化し、SSDなどに使われます。
- HBMは、DRAMを積層した高帯域のメモリです。 GPUなどへの大量のデータ供給を支えます。
メモリを理解するときは、名前の暗記よりも、何を記憶するか、どのように記憶するか、どんな性能が必要かに注目してみましょう。役割と仕組みを結び付けると、スマートフォンの仕様からAI半導体のニュースまで読み解きやすくなります。
次に読む記事:
- 計算・判断・制御を担う:ロジック半導体とは?
- AI向けメモリをさらに詳しく:HBMとは?
- GPUとHBMをつなぐ実装技術:CoWoSとは?
参考資料
企業・研究開発部門の公式解説を参照しています。参照日:2026年10月18日。図解は、役割や構造の違いを示すための模式図です。
- Samsung Semiconductor:DRAM〈SRAMとの違い、用途、SSDとの関係〉
- Renesas:SRAMs〈状態保持回路とリフレッシュ〉
- Samsung Semiconductor:DRAM用語解説〈1T1C、電荷とリフレッシュ〉
- キオクシア:NAND型フラッシュメモリとは〈電荷蓄積としきい値電圧〉
- Kingston:メモリとストレージの違い〈機器内の役割分担〉
- Kingston:用語集〈容量、帯域、遅延、NANDダイの積層〉
- キオクシア:フラッシュメモリの大容量化を実現する「多値化技術」とは〈SLC・MLC・TLC・QLC〉
- キオクシア:3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH™」とは〈セル構造の多層化〉
- Micron:High-bandwidth memory〈DRAMの積層、高帯域とAIでの役割〉
- Micron:HBM4〈容量と帯域幅の違い、積層と接続〉


コメント