生成AIを動かすデータセンターでは、多くのGPUが協力して計算しています。そのためには、計算結果や学習用のデータを、チップや機器の間で大量に受け渡す通信が必要です。
通信量が増えると、データを運ぶための電力や発熱も問題になります。計算するチップの性能とともに、そのチップへデータを届ける仕組みも改善しなければなりません。
そこで注目されているのが、電子回路と光回路を組み合わせる「光電融合」と、その実装方式の一つである「CPO」です。
この記事では、AI通信の課題から始めて、光電融合の考え方、CPOの仕組みとメリット、実用化の課題、今後の進化を順番に説明します。
AI通信の課題
データを多く運びたい
多数のGPUを使うAIでは、計算を分担した後に結果を共有するなど、大量の通信が発生します。通信が追い付かなければ、GPUがデータを待つ時間が増えてしまいます。
これは、加工する機械が増えた工場で、部品の供給が追い付かなくなる状況に似ています。計算する能力と、データを運ぶ能力を一緒に高めることが必要です。
一定時間に送れるデータ量を表す指標を「帯域幅」と呼びます。AI向けの通信では、この帯域幅を大きくすることが重要になります。[3][4]
通信の電力を抑えたい
電気配線で高速な信号を送ると、配線の損失や反射などで信号の形が崩れます。長い電気配線で信号品質を保つには、信号を補正する回路にも電力が必要です。
通信能力を高めるために電力を多く使えば、発熱や冷却の負担も増えます。そこで、電気でつなぐ距離を短くし、光で運ぶ経路をチップへ近づけることが検討されています。[3][8]
大量のデータを運ぶ能力と、通信の省電力化を両立することが、AI通信の課題です。
光電融合とは?
光電融合〈こうでんゆうごう〉は、電気信号を扱う電子回路と、光信号を扱う光回路を組み合わせる技術です。[2]
通信への応用では、役割を次のように考えると分かりやすくなります。
| 役割 | 主に使うもの |
|---|---|
| データを計算・記憶・制御する | 電子回路 |
| データを別の場所へ運ぶ | 電気配線に加え、光ファイバーや光導波路 |
| 電気と光の間をつなぐ | 変調器、受光器と、それらを動かす電子回路 |
例えば、チップで処理したデータを光信号に載せて送り、受信側で電気信号へ戻せば、電子回路がその続きを処理できます。
つまり、電気で処理する機能と、光で運ぶ機能を連携させるという考え方です。この記事で扱うのは、通信に光を取り入れる技術です。
光ファイバーによる通信は、すでに広く利用されています。現在の光電融合では、その光の機能を装置内部やチップの近くへ取り込み、短い距離の通信にも活用する開発が進められています。[2]
CPOとは何?
CPOは、Co-Packaged Optics〈コパッケージド・オプティクス〉の略です。データを処理するチップと、光の送受信を担う「光エンジン」を、同じパッケージへまとめます。[3][8]
パッケージは、チップを保護し、信号や電力の接続をまとめる構造です。CPOでは、その中でチップと光エンジンを近づけ、短い電気接続でつなぎます。
変わるのは変換の場所
従来のプラガブル方式では、装置の前面などへ差し込んだ「光トランシーバー」で電気と光を変換します。内部のチップから、そこまで電気配線を通る必要があります。
CPOでは、この変換部をチップの近くへ移します。電気で通る部分を短くし、その先の伝送に光を使います。[3]
| 比較する点 | プラガブル方式 | CPO |
|---|---|---|
| 光へ変換する場所 | 装置の前面などの光トランシーバー | チップと同じパッケージ内の光エンジン |
| チップから変換部まで | 基板上の電気配線などを通る | パッケージ内の短い電気接続を使う |
| 主な特徴 | 光モジュールを交換しやすい | 電気接続の負担を減らし、接続を高密度化する |
従来方式でも、装置の外へ出た先は光で通信しています。CPOの特徴は、光への変換部をチップへ近づける配置にあります。
光電融合が電気と光を組み合わせる大きな考え方なら、CPOはそれを部品の配置として具体化する方式です。[2][8]
CPOの仕組み
主な部品を知る
ネットワークスイッチを例に、CPOを構成する主な部品を見てみましょう。スイッチは、受け取ったデータを目的の接続先へ振り分ける機器です。
| 部品 | 何をする? |
|---|---|
| スイッチASIC | データの送り先を判断し、振り分ける専用の半導体 |
| 光エンジン | 電気信号と光信号を変換し、光を送受信する |
| レーザー光源 | 通信に使う光を供給する |
| 光ファイバー・光導波路 | 光が通る経路を作る |
| パッケージ基板 | チップや光エンジンを載せ、電気接続などをまとめる |
光エンジンには、光を制御・検出する「PIC〈光集積回路〉」と、変調器を動かしたり受信信号を増幅したりする「EIC〈電子集積回路〉」が使われます。別々のチップを組み合わせる構成もあります。[3][4]
PICを作る技術の一つが「シリコンフォトニクス」です。シリコンの製造技術などを使い、光の通り道や光を制御する部品を小さく集積します。シリコンフォトニクスは光回路を作る技術、CPOは電子チップと光エンジンをまとめる実装方式、と整理できます。[4]
通信に使う光を作る
ここからは、外部レーザーを使う構成を例に、データが相手へ届くまでを追います。
まず、レーザーが通信に使う光を作り、送信側の光エンジンへ供給します。パッケージの外に置くレーザー光源は、ELS〈External Laser Source〉と呼ばれます。
レーザーを高温のチップから離し、温度管理や交換をしやすくする設計が使われます。CPOでも、レーザーを含むすべての部品を同じパッケージ内に置くとは限りません。[6]
光にデータを載せる
スイッチASICなどが扱うデータを、短い電気接続で光エンジンへ渡します。光エンジンの電子回路が「変調器」を動かし、送りたいデータに合わせて光の強さなどを変えます。[4]
レーザーは光を作り、変調器はその光にデータを載せます。この二つの役割を分けると、仕組みを理解しやすくなります。
光を相手へ届ける
データを載せた光が、光導波路や光ファイバーを通って相手へ届きます。光導波路は、光を決められた方向へ導くための通り道です。
電気のデータへ戻す
受信側では「受光器」が光を電気信号へ変え、電子回路が増幅・処理してデータを取り出します。そのデータを受け取ったチップが、次の処理を行います。[4]
部品の配置や光源のまとめ方は製品によって異なりますが、光を用意し、データを載せ、運び、受け取るという流れが基本です。

CPOのメリット
通信の電力を減らす
電気信号を通す距離を短くすることで、配線で劣化した信号を補う負担を減らせます。構成によっては、従来の光モジュールで使っていた信号補正用のDSP〈デジタル信号処理回路〉などを省き、通信の電力を抑える設計もあります。[3]
ただし、レーザーや送受信回路にも電力は必要です。効果を見るときは、同じデータ量を運ぶ条件で、どの範囲の消費電力を比較しているかを確認します。
接続を高密度にする
チップの周囲へ光エンジンを配置し、限られたスペースに多数の高速な接続をまとめることを目指します。光ファイバーの取り付け方や配線も含めた工夫が必要です。[3][5]
GPUの待ち時間を減らす
通信が処理の足かせになっている場合、データを運ぶ能力を高めることは、GPUがデータを待つ時間の短縮につながります。
効果はAIの処理内容やシステム全体の構成によって変わりますが、CPOは計算能力を支える通信技術として期待されています。[3][4]
CPOの課題
CPOの効果を引き出すには、部品を近づけることに加え、光を正確につなぎ、安定して通信できる状態を保つ必要があります。主な課題は、次の六つです。
光の位置合わせ
光回路と光ファイバーの位置や角度がずれると、相手へ届く光が減ります。精密に位置を合わせ、組み立て後もずれないように固定する技術が必要です。
このように、光を部品間で受け渡す接続を「光結合」と呼びます。[5]
光配線の高密度化
多数の光ファイバーを狭い場所へ接続するため、配線の配置が難しくなります。光回路側とファイバー側で、接続口の間隔が異なる場合もあります。
光導波路で経路や間隔を調整するなど、密度と接続しやすさを両立させる工夫が求められます。[5]
熱の影響への対策
高性能な電子チップの近くは高温になりやすく、光回路の特性も温度で変化します。例えば、マイクロリング型の変調器では、温度による特性の変化に応じた調整が必要です。
冷却や温度制御まで含めて設計し、安定して通信できる状態を保ちます。[6]
材料の信頼性
接着剤の硬化収縮、温度変化による反り、吸湿などは、接続位置や材料の状態を変える原因になります。光が通る場所の材料には、使用する波長で光をよく通す性質も必要です。
接着・補強する力と光学特性を、製造工程から長期使用まで保てる材料を選びます。[1]
検査と歩留まり
CPOは複数の高価な部品をまとめるため、組み立て後に不良が見つかると損失が大きくなります。部品段階と組み立て後の両方で、電気回路の動作、届く光の量、データの送受信などを確認します。
良品として完成する割合である「歩留まり」を高めることも、コストを抑える鍵です。[1][8]
故障時の交換
光エンジンをチップと一体化すると、従来の差し込み型光モジュールとは交換する範囲が変わります。外部レーザーを交換できる構成でも、光エンジンまで同様に交換できるとは限りません。
どの部品を交換可能にするかを決め、性能と保守のしやすさを両立させる必要があります。[6][10]
CPOの実用化では、光の接続・配線・熱・材料・検査・交換をまとめて設計することが重要です。

光電融合の進化
光電融合のロードマップは、電気から光へ変換する場所をチップへ近づけ、光でつなぐ範囲を広げていく流れとして見ると分かりやすくなります。
関連する方式を、配置と狙いで整理すると次のようになります。[2][8]
| 方式 | 変換部の配置・光を使う範囲 | 主な狙い |
|---|---|---|
| プラガブル | 装置の前面などに光モジュールを配置 | 光ファイバーで機器間をつなぎ、モジュールを交換しやすくする |
| LPO | 装置の前面など。プラガブル型を維持 | モジュール内のDSPを省き、消費電力を抑える |
| NPO | パッケージ化されたASICの近くへ光モジュールを配置 | チップから変換部までの電気接続を短くする |
| CPO | 電子チップと光エンジンを同じパッケージへ集積 | 電気接続をさらに短くし、多数の高速な接続をまとめる |
| 光I/Oチップレット | 光の入出力機能を小さなチップへまとめ、プロセッサーの近くに実装 | CPUやGPUなどからのデータの出入りに光を取り入れる |
| オンチップ | チップ内部の接続などへ光の機能を集積 | 光を使う範囲をさらに細かい領域へ広げる |
プラガブルとLPO
プラガブル方式は、装置の前面などで光に変換します。LPO〈Linear Pluggable Optics〉も差し込み型ですが、モジュール内のDSPを省くことで省電力化を狙います。
LPOで主に変わるのは信号処理の構成です。変換部をチップへ近づけることとは、別の工夫になります。[9]
NPOからCPOへ
NPO〈Near-Packaged Optics〉は、光モジュールをASICの近くへ配置します。CPOでは、電子チップと光エンジンを同じパッケージにまとめます。
どちらも、チップと変換部の間を短くすることが狙いです。光への変換を早い段階で行い、その先を光で運ぶことで、電気配線の負担を減らします。[3][8]
光I/Oのチップ化
光I/O〈光による入出力〉チップレットは、光でデータを出し入れする機能を、小さなチップへまとめたものです。計算するチップの近くへ組み合わせ、プロセッサー同士などを光でつなぐことを目指します。
光I/Oチップレットを、CPOとして同じパッケージに実装する構成もあります。Intelは2024年に、CPUと同じパッケージへ光I/Oチップレットを組み込み、データを送受信する実証を発表しました。両者は、組み合わせて使える技術です。[7]
チップ内部にも光を
さらに先には、チップ内部の通信へ光を取り込む方向があります。光でデータを運ぶことに加え、光で一部の演算を行う研究も進められています。
チップ内の光通信と光による演算は、別の技術課題です。オンチップ化すれば、そのまますべての計算が光になるわけではありません。[2]
このロードマップは、決まった年に各方式が順番に置き換わる予定表ではなく、技術の発展方向を整理したものです。用途に応じて複数の方式が使われ、CPOと光I/Oチップレットのように重なる構成もあります。
「変換部はどこにあるか」「光でどこまでつなぐか」に注目すると、CPOの現在地と、その先の進化が見えてきます。

CPOのまとめ
- 光電融合は、電子回路と光回路を組み合わせる技術です。 通信への応用では、電気による処理と光による伝送を連携させます。
- CPOは、光エンジンをチップと同じパッケージへまとめる方式です。 電気接続を短くし、大量のデータを効率よく運ぶことを目指します。
- 安定して使うための設計が欠かせません。 光の接続、配線、熱、材料、検査、交換方法まで含めて考える必要があります。
CPOを理解する入口は、光への変換部をチップへ近づけるという配置の変化です。その仕組みからメリットと課題を捉え、光を使う範囲が広がるロードマップを見ると、光電融合の全体像をつかみやすくなります。
次に読む記事:
- 計算や制御を担うチップの基礎:ロジック半導体とは?
- 複数のチップをつなぐ実装技術:CoWoSとは?
- 半導体ができるまでの流れ:半導体製造工程の全体像
参考資料
レゾナックの記事を参考に、研究機関・各社の公式資料で光電融合の仕組み、CPOの課題、技術の発展方向を整理しています。参照日:2026年10月18日。
- レゾナック:光電融合・CPOとは? 次世代データセンターを支える実装の課題と光学材料の役割〈光電融合の全体像、実装材料と選定の考え方〉
- 産総研マガジン:光電融合とは?〈電子回路と光回路、光通信の装置内部への展開〉
- NVIDIA:A New Era in Data Center Networking with NVIDIA Silicon Photonics-based Network Switching〈光エンジンの配置、電気接続の短縮と通信電力〉
- Intel:Intel Advances Progress in Integrated Photonics for Data Centers〈帯域と電力の課題、光源・変調器・受光器などの構成要素〉
- imec:Interfacing silicon photonics for high-density co-packaged optics〈光結合、高密度な光配線、ポリマー光導波路と実装歩留まり〉
- NVIDIA:How Industry Collaboration Fosters NVIDIA Co-Packaged Optics〈光エンジン、温度管理と外部レーザー〉
- Intel:Intel Demonstrates First Fully Integrated Optical I/O Chiplet〈2024年6月26日・CPUと光I/Oチップレットの同一パッケージ実証〉
- OIF:Co-Packaging Framework Document〈CPO/NPOの実装構成、熱設計・信頼性〉
- LPO MSA:LPO-MSA〈プラガブル型を維持し、モジュール内のDSPを省く構成〉
- NTT R&D:PEC-2を搭載した大容量・低消費電力な光電融合スイッチ〈CPO構成の交換・保守とソケット型実装〉


コメント