半導体は、成膜・フォトリソグラフィ・エッチング・イオン注入・CMPなど、多くの工程を繰り返して作られます。
前工程が終わったウェーハを見ると、表面には同じ半導体チップが何百個も並んでいます。
しかし、このままでは1個ずつの半導体製品として使うことはできません。
そこで行われるのが、
ダイシング
です。
ダイシングとは、
1枚のウェーハを、1個ずつの半導体チップに分ける工程
です。
一言でいえば「ウェーハを切る工程」ですが、実際には単純に刃物で切るだけではありません。
半導体チップは非常に小さく、薄く、欠けやクラックが発生しやすいため、
- どこを切るのか
- どうやってウェーハを固定するのか
- チップを傷つけずに切れるか
- どれだけ細い幅で切れるか
- 切ったチップをどうやって取り出すか
といった点が重要になります。
また、ダイシングには代表的に、
ブレードダイシング
レーザーアブレーション
ステルスダイシング
など、異なる加工方法があります。
この記事では、
- ダイシングとは何か
- 半導体製造のどのタイミングで行うのか
- ダイシングテープの役割
- ダイシングストリートとは何か
- ブレード・レーザー・ステルスダイシングの違い
- カーフやチッピングとは何か
- ダイシング後にチップをどう取り出すのか
について、初心者向けに分かりやすく解説します。
ダイシングとは?
ダイシングとは、
半導体回路が形成されたウェーハを、1個ずつのチップ(ダイ)へ分割する工程
です。
ウェーハ上には、
□ □ □ □
□ □ □ □
□ □ □ □
のように、多数の同じチップが並んでいます。
前工程では、これらを1枚のウェーハのまままとめて加工します。
しかし最終的には、それぞれを1個ずつのチップとして基板やパッケージへ搭載する必要があります。
そのため、
ウェーハ
↓
ダイシング
↓
個々のチップ
という工程が必要になります。
「dicing」は「dice」と同じ語源で、細かく切り分けるというイメージを持つと分かりやすいでしょう。
ダイシングは半導体製造のどこで行う?
ダイシングは、前工程が終わり、ウェーハテストを行った後に実施される代表的な後工程の一つです。
半導体製造を簡単に並べると、
前工程
↓
ウェーハテスト
↓
ダイシング
↓
ダイボンディング
↓
チップと外部回路を接続
↓
樹脂封止
↓
最終検査
という流れになります。
前の記事で解説したウェーハテストでは、
ウェーハ上の各チップが正常に動作するか
を電気的に確認します。
そしてダイシングでは、そのウェーハを1個ずつのチップへ分けていきます。
つまり、
ウェーハテスト=正常に動くチップを確認する
ダイシング=チップを1個ずつに分ける
という関係です。
なぜウェーハをダイシングテープに貼るの?
ダイシングを理解するうえで重要なのが、
ダイシングテープ
です。
ウェーハをそのまま切ってしまうと、切り離されたチップがバラバラになってしまいます。
そこでダイシング前に、ウェーハの裏面を粘着性のあるテープへ貼り付けます。
これがダイシングテープです。
ダイシングテープには主に、
- ウェーハを固定する
- 切断中にチップが動くのを防ぐ
- 切断後もチップの位置関係を維持する
という役割があります。
つまり、ウェーハ自体は切り分けても、
下側のテープによって、チップは元の位置関係を保ったまま保持されます。
これは後で良品チップを取り出すときにも重要です。
ダイシングストリートとは?
ウェーハ上のどこでも自由に切ってよいわけではありません。
それぞれのチップとチップの間には、
切断するための領域
があります。
これを、
ダイシングストリート
と呼びます。
イメージすると、
チップ|ダイシングストリート|チップ
という関係です。
道路のようにチップとチップの間を通っているため、
「切るための道」
と考えると分かりやすいです。
ダイシング装置は、このストリートに沿ってウェーハを切断します。
ダイシング工程の基本的な流れ
一般的なダイシング工程は、大まかに次のような流れで進みます。
① ウェーハをテープへ固定する
まず、ウェーハをダイシングテープへ貼り付けます。
テープはリング状のフレームに固定され、ウェーハを安定して保持します。
② ダイシング位置を確認する
次に、
どこを切るのか
を確認します。
ダイシングストリートからずれて切ってしまうと、チップ内部の回路を傷つける可能性があります。
そのため、ウェーハ上のパターンなどを利用して位置合わせを行います。
③ ウェーハを切断する
位置合わせが完了すると、ストリートに沿ってウェーハを加工します。
代表的な方法が、
- ブレードダイシング
- レーザーアブレーション
- ステルスダイシング
です。
これらは、材料を分離する方法がそれぞれ異なります。
④ 洗浄・乾燥する
ブレードダイシングでは材料を物理的に削るため、加工時に細かな切削くずが発生します。
そのため、必要に応じて加工後に洗浄・乾燥を行い、ウェーハやチップ表面に異物が残らないようにします。
半導体は微細な回路を扱うため、細かな異物の管理も重要です。
⑤ チップの間隔を広げる
ダイシング直後は、切り分けられたチップ同士が非常に近い位置に並んでいます。
そこでダイシングテープを外側へ広げる、
エキスパンド
を行うことがあります。
テープを広げることで、
チップ同士の間隔も広がります。
これによって、次の工程で1個ずつチップを取り出しやすくなります。
⑥ 良品チップをピックアップする
最後に、ウェーハテストなどで良品と判定されたチップを1個ずつ取り出します。
これを、
ピックアップ
と呼びます。
取り出された良品チップは、次のダイボンディング工程へ進みます。
ダイシングには3つの代表的な方法がある
ダイシングでは、材料やウェーハの厚さ、チップ構造などによってさまざまな加工方法が使われます。
初心者がまず覚えておきたいのは、
① ブレードダイシング
② レーザーアブレーション
③ ステルスダイシング
の3つです。
重要なのは名前を覚えることより、
「材料をどのように分離しているのか」
を理解することです。
① ブレードダイシングとは?
ブレードダイシングは、
非常に薄い円盤状のブレードを高速回転させ、ウェーハを削りながら切断する方法
です。
半導体用のダイシングブレードにはダイヤモンド砥粒などが使われ、細いストリートを高精度に加工します。
ブレードダイシングは「削って切る」
ブレードが高速回転しながらウェーハへ入り、
シリコンなどの材料を物理的に削り取ることで切り溝を形成します。
つまり、
ブレードダイシング=物理的に削って切る
と考えると分かりやすいです。
ブレードダイシングの特徴
ブレードダイシングは広く使われている方法で、
- 技術が成熟している
- 高精度な加工が可能
- さまざまな材料に対応しやすい
といった特徴があります。
一方で物理的に材料を削るため、
- 切削くず
- チッピング
- ブレードの摩耗
- 加工時の機械的な負荷
などにも注意が必要です。
② レーザーアブレーションとは?
レーザーを使ったダイシング方法の一つが、
レーザーアブレーション
です。
レーザーをダイシングストリートへ照射し、
材料を除去しながら切り溝を形成する方法
です。
ブレードのような刃がウェーハへ直接接触しないため、
非接触加工
であることが特徴です。
レーザーアブレーションは「レーザーで材料を除去する」
レーザーアブレーションでは、
レーザー照射
↓
材料へエネルギーが加わる
↓
照射部分の材料が除去される
↓
切り溝が形成される
という流れで加工します。
つまり、
ブレード=物理的に削る
のに対し、
レーザーアブレーション=レーザーを利用して材料を除去する
という違いがあります。
③ ステルスダイシングとは?
レーザーを利用するもう一つの代表的な方法が、
ステルスダイシング
です。
レーザーを使うという点ではレーザーアブレーションと似ていますが、
加工原理は大きく異なります。
ステルスダイシングでは表面を削らない
ステルスダイシングでは、レーザーをウェーハ表面ではなく、
ウェーハ内部
へ集光します。
するとウェーハ内部に、
改質層
と呼ばれる、強度が低下した領域を形成できます。
この段階では、ウェーハが完全にチップへ分離しているわけではありません。
改質層を作った後にチップを分離する
内部に改質層を形成した後、ダイシングテープを広げるなどしてウェーハへ外力を加えます。
すると、
改質層を起点としてウェーハが分割
されます。
つまり、
レーザーを内部へ集光
↓
改質層を形成
↓
外力を加える
↓
チップへ分離
という流れです。
レーザーアブレーションとステルスダイシングの違い
レーザーアブレーションとステルスダイシングは、どちらもレーザーを使用するため混同しやすい方法です。
しかし、加工原理は異なります。
レーザーアブレーション
→ 表面側から材料を除去して切る
ステルスダイシング
→ ウェーハ内部に改質層を作り、後から分割する
という違いがあります。
特にステルスダイシングは、
「レーザーでその場でウェーハを完全に焼き切る方法」ではない
ことを覚えておきましょう。
3つのダイシング方法を比較
ここまでの違いを整理すると、次のようになります。
| ブレード | レーザーアブレーション | ステルス | |
|---|---|---|---|
| 加工方法 | ブレードで削る | レーザーで材料を除去 | 内部に改質層を作る |
| 接触 | 接触加工 | 非接触 | 非接触 |
| 主な加工位置 | 表面から厚さ方向 | 表面側 | ウェーハ内部 |
| 分離 | 加工時 | 加工時 | 改質後に分割 |
| 特徴 | 成熟した一般的な方式 | 刃を使わない | 切削くずを抑えやすい |
重要なのは、
どれが必ず一番優れているというわけではない
ことです。
材料、ウェーハ厚さ、チップ構造、必要な加工品質などに応じて、適した方法が選ばれます。
カーフとは?
ダイシングで覚えておきたい言葉の一つが、
カーフ(Kerf)
です。
カーフとは簡単にいうと、
加工によって材料がなくなる切り溝の幅
です。
例えばブレードでウェーハを切ると、ブレードが通った部分の材料は削り取られます。
この加工によって失われた幅がカーフです。
なぜカーフを小さくしたいの?
ウェーハからできるだけ多くのチップを取りたい場合、チップとチップの間に必要な領域は小さい方が有利です。
カーフが大きくなると、
切断に使う面積が増える
↓
チップとして利用できない面積も増える
ことになります。
そのためダイシングでは、
加工品質を保ちながら、できるだけ狭い領域を正確に加工する
ことも重要になります。
チッピングとは?
ダイシングで注意しなければならない代表的な加工不良が、
チッピング
です。
チッピングとは、
ダイシング時にチップの端部が欠ける現象
です。
半導体チップは非常に小さいため、欠けが大きくなると回路や信頼性へ影響する可能性があります。
なぜチッピングが発生する?
特にブレードダイシングでは、ウェーハへ物理的な力を加えながら材料を削ります。
そのため、
- ブレードの状態
- 加工速度
- 振動
- ウェーハの材質
- 加工条件
などによって、チップ端部に欠けやクラックが発生することがあります。
ダイシングでは、
「切れればよい」
のではなく、
「チップを傷つけずに、きれいに分割できるか」
が重要です。
ダイシング後はどうなる?
ダイシングが終わると、ウェーハは多数のチップへ分割されています。
しかし、チップはまだダイシングテープ上に並んでいます。
そこで、
テープをエキスパンド
↓
チップ間隔を広げる
↓
良品チップを確認
↓
1個ずつピックアップ
という流れで取り出します。
取り出された良品チップは、次のダイボンディング工程へ送られます。
ダイボンディングとは?
ダイボンディングとは、
ダイシングで切り離した半導体チップを、基板やパッケージなどへ固定する工程
です。
半導体製造の流れで見ると、
ウェーハテスト
↓
ダイシング
↓
ピックアップ
↓
ダイボンディング
となります。
ダイシングを境に、これまで1枚のウェーハとして扱われていた半導体が、
1個ずつのチップとして扱われるようになる
と考えると分かりやすいでしょう。
薄いチップで使われるDBGとは?
ダイシングには、
DBG(Dicing Before Grinding)
と呼ばれる方法もあります。
通常のイメージでは、
ウェーハを薄くする
↓
ダイシングする
という順番です。
一方DBGは名前の通り、
Dicing Before Grinding
つまり、
研削する前にダイシング加工を行う方法
です。
ただし、最初からウェーハを完全に切断するわけではありません。
まず表面側から途中まで溝を形成します。
その後、
ウェーハ裏面を研削
↓
ウェーハが薄くなる
↓
事前に形成した溝へ到達
↓
チップへ分離
という流れで個片化します。
薄いウェーハをそのままダイシングすると破損しやすくなる場合があるため、このような方法が利用されます。
初心者の段階では、
DBG=「少し切ってから薄くし、最後にチップへ分離する方法」
と覚えておけば十分です。
ダイシングを一言でまとめると?
ダイシングとは、
「回路が完成したウェーハを、1個ずつの半導体チップへ分割する工程」
です。
ただし、実際には単純に切るだけではありません。
ダイシングテープで固定
↓
位置合わせ
↓
ストリートに沿って加工
↓
必要に応じて洗浄
↓
エキスパンド
↓
良品チップをピックアップ
という一連の工程で行われます。
まとめ
今回は、半導体のダイシングについて解説しました。
ダイシングとは、
ウェーハを1個ずつの半導体チップへ分割する工程
です。
代表的な加工方法には、
ブレードダイシング
→ ブレードで材料を削って切る
レーザーアブレーション
→ レーザーで材料を除去して切る
ステルスダイシング
→ ウェーハ内部に改質層を作り、後から分割する
があります。
特に、
レーザーアブレーションとステルスダイシングは、同じレーザー加工でも原理が違う
ことが重要です。
またダイシングでは、
- ダイシングテープ
- ダイシングストリート
- カーフ
- チッピング
- エキスパンド
- ピックアップ
といった考え方も重要になります。
半導体製造全体では、
ウェーハテスト
↓
ダイシング
↓
ダイボンディング
という流れで進みます。
前工程では1枚のウェーハとして加工されていた半導体が、
ダイシングを境に「1個ずつのチップ」へ変わる
と考えると、この工程の役割が理解しやすいでしょう。
次の記事では、ダイシングによって切り分けたチップを基板やパッケージへ固定する、
「ダイボンディング」
について解説します。


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