AI半導体を支える日本企業|8社の役割をやさしく解説

業界・企業

AI半導体のニュースでは、GPUやHBMを開発する企業の名前を目にします。その高性能な半導体を製品にするまでには、回路を作り、チップを薄く加工し、部品同士をつなぎ、熱を逃がし、動作を確かめる仕事が必要です。

こうした仕事を支えているのが、製造装置、材料、パッケージ基板などを提供する企業です。日本にも、それぞれの分野で技術を持つ企業があります。

この記事では、GPUとHBMを組み合わせるAI向けの半導体を例に、日本企業8社の役割を紹介します。回路づくりから加工・組み立て、放熱、検査まで、どこで何を支えているのかを順番に見ていきましょう。

AI半導体の中身

AI半導体は、AIの学習や推論に必要な計算を効率よく進めるための半導体です。学習はデータから特徴や規則性を学ぶこと、推論は学習した結果を使って文章の生成や画像の判別などを行うことを指します。

大量の計算を進めるには、計算する回路と、データを供給するメモリが必要です。

GPUは、多くの計算を並列に進めるプロセッサーです。AI向けの製品には、GPUの近くに「HBM」というメモリを配置するものがあります。

HBMは、高帯域幅メモリの略です。帯域幅は、一定時間に送れるデータ量を表します。データを一時的に保持するDRAMのチップを複数積み重ね、大量のデータをやり取りできるようにしています。

これらを一つの製品として組み合わせるには、細かな配線や接続、保護、放熱なども必要になります。

GPUが計算を進め、HBMがデータを供給します。インターポーザーとパッケージ基板が接続を支えます。
主な部品役割
GPUなどの演算チップAIで必要となる計算を進める
HBM計算に使うデータを保持し、大量にやり取りする
インターポーザーチップ同士を高密度な配線でつなぐ中間部材
パッケージ基板外部の基板へ信号や電力の接続を引き出す
放熱部材チップから受け取った熱を外へ逃がす

複数のチップや接続部などをまとめた構造が「パッケージ」です。TSMCのCoWoSは、演算チップやHBMを高密度に組み合わせる先端パッケージ技術の一つです。[1]

AI半導体を理解するときは、計算するチップと、そのチップを製品として使えるようにする技術を、一緒に見ることが大切です。

ここからは、製造や実装で必要になる仕事と、日本企業を結び付けて見ていきます。紹介する企業は、一般的な部品・工程上の役割に基づく例です。実際の構成や採用企業は製品によって異なります。

回路を作る

最初は、シリコンの円盤である「ウェーハ」の上に、トランジスタや配線を作る段階です。トランジスタは電流を制御する素子で、多数を組み合わせて計算などを行う回路を作ります。

この回路形成を担う工程が「前工程」です。薄い膜を作る成膜や、膜を加工するエッチング、洗浄などを繰り返し、回路を作り込んでいきます。

東京エレクトロン

東京エレクトロンは、塗布現像、成膜、エッチング、洗浄など、複数の工程に対応する装置を提供しています。[2]

例えば成膜装置は、回路に必要な薄い膜を形成します。エッチング装置は、作りたいパターンに合わせて膜を加工します。

塗布現像装置では、光に反応する「フォトレジスト」を塗り、光を当てる露光の工程を経て、現像でパターンを作ります。露光の前後に必要な処理を担う装置です。

こうした装置で、膜厚や加工形状などを精密に制御することが、細かな回路を作る土台になります。

SCREEN

SCREENは、ウェーハ洗浄装置などを提供しています。ウェーハを一枚ずつ処理する「枚葉式」の洗浄装置や、裏面の洗浄装置などが代表例です。[3]

半導体製造では、小さな異物や不要な残留物が、回路や接続の品質に影響します。必要な膜や構造を保ちながら表面を適切な状態に整えるため、工程に応じた洗浄が必要です。

製造装置の役割には、回路を作り込む加工と、その加工を安定して続けるための表面処理があります。

薄く重ねる

回路を形成したウェーハは、その後の実装に合わせて薄く加工したり、一つ一つのチップへ分けたりします。実装は、チップを配置・接続し、部品や製品として使える状態に組み立てることです。切り出す一つ一つのチップは「ダイ」とも呼ばれます。

HBMのようにチップを重ねる製品では、薄くする加工に加え、接続や保護の技術も必要になります。精密加工のディスコ、材料のレゾナック、樹脂成形のTOWAを例に見てみましょう。

ディスコの加工技術

ウェーハの裏面などを砥石で削り、薄くする加工を「研削〈グラインディング〉」と呼びます。一つ一つのチップへ切り分ける加工が「ダイシング」です。

ディスコは、こうした加工に使うグラインダやダイシングソー、レーザソーなどを提供しています。先端パッケージでは、演算チップ、メモリ、インターポーザーなどに、薄化や個片化の工程があります。[4]

HBMのようにチップを積み重ねる製品では、積層後の厚さを考えて、一枚一枚のチップを薄くする必要があります。

一方、薄くなったウェーハやチップは、割れや欠けを抑えながら扱わなければなりません。加工後も使える品質を保つため、削る条件や切り分ける方法、搬送の仕方まで工夫します。

例えばディスコのDBGでは、先にウェーハへ溝を入れ、その後の研削で薄化とチップ分割を行います。薄化したウェーハの搬送に伴う割れのリスクなどを抑える加工方法です。[5]

薄くすることと、壊さずに次の工程へ渡すことを両立させる技術が、積層や高密度な実装を支えています。

レゾナックのNCF

チップを積み重ねる部分では、金属端子による電気接続とともに、接合部を安定させる材料も重要です。

レゾナックが提供するNCF〈Non-Conductive Film〉は、絶縁性の接着フィルムです。HBMのチップを接続しながら積層する用途に使われます。

接着する力に加え、接続の信頼性や薄膜の厚さ精度も求められます。電気を流す金属接合部と、その周囲を支える材料には、それぞれ異なる役割があります。[6]

TOWAの樹脂成形

TOWAは、コンプレッションモールディングなどの樹脂成形装置・技術を提供しています。モールディングは、樹脂を成形し、チップや接合部などを保護する加工です。

積層チップの間には、非常に狭いすき間があります。そこへ樹脂を充填する際は、狙った範囲へ均一に行き渡らせることが課題になります。

TOWAは2025年3月、HBM4の狭いすき間への樹脂充填に対応するパッケージング技術を確立したと発表しました。[7]

NCFやモールド樹脂が使われる位置・方法は、製品構成や工法によって変わります。材料の性質と加工方法を組み合わせ、安定した接続や保護を実現します。

基板でつなぐ

GPUやHBMを組み合わせた後は、そのパッケージを外部の基板へつなぐ必要があります。そこで使われるのが、信号や電力の経路を持つパッケージ基板です。

基板そのものを作るイビデンと、基板に使う絶縁材料を提供する味の素グループでは、供給するものが異なります。

イビデンの基板

イビデンは、AI向けGPUなどに使われるICパッケージ基板を提供しています。

重要になるのが、細かな配線を作る技術と、基板の層同士をつなぐ技術です。イビデンは、微細な配線の形成や、マイクロビアと呼ばれる小さな穴を使った層間接続を紹介しています。[8]

接続したい端子が増えれば、限られた領域に多くの配線を収める必要があります。基板は、チップを載せる土台として、電気的な接続も担っています。

味の素グループのABF

味の素グループの味の素ファインテクノが提供するABF〈味の素ビルドアップフィルム〉は、パッケージ基板の層間に使う絶縁フィルムです。

基板内部では、信号や電力を運ぶ銅配線を作ります。その配線同士が意図せず接触しないように、絶縁する材料も必要です。ABFは、その役割を担います。

味の素ファインテクノは、AIやサーバーなどの用途に使われるロジックIC向けパッケージ基板を、ABFの用途として説明しています。[9]

企業主に提供するもの位置付け
イビデンICパッケージ基板配線や層間接続などを作り込んだ部品
味の素グループABF基板の層間に使う絶縁材料

「基板を作る企業」と「基板の材料を作る企業」を分けると、両社の役割を理解しやすくなります。

熱を逃がす

高性能なチップを使うには、発生した熱を放熱部へ伝える経路も必要です。

チップ側と放熱部材の表面には細かな凹凸があり、接触面の状態も熱の伝わり方に影響します。その間に使うのが、TIM〈Thermal Interface Material〉と呼ばれる熱伝導材料です。

接触面で熱を伝える

レゾナックは、高性能半導体向けのTIMを提供しています。熱を伝える性能に加え、温度変化に耐える信頼性や、接触面の細かな凹凸へ密着する性質が求められます。[6]

TIMは、発熱する側から放熱する側へ熱を渡す役割を担います。材料の性能だけでなく、どこへ、どのような状態で接触させるかも含めて設計します。

同じパッケージに使う材料でも、HBMの積層部に使うNCFと、熱を伝えるTIMでは、働きが異なります。使う位置と目的に注目すると、材料メーカーの役割を理解しやすくなります。

性能を確かめる

回路を作り、チップを加工して接続したら、電気的に正常に動くかを確かめます。この試験を支える企業の一つが、アドバンテストです。

ロジックとメモリの試験

GPUなど、計算や制御を担う「ロジック半導体」では、回路の動作や信号の入出力などを確認します。HBMなどのメモリでは、データの読み書きが正常に行えるかなどを調べます。

アドバンテストのV93000は、AIや高性能計算向けのロジック半導体などを試験するテストシステムです。また、T5503HS2は、HBMを含む高速メモリの試験に対応しています。[10][11]

複雑な回路や高速な信号に合わせ、電源や測定条件を整えて動作を確かめる技術が必要になります。

途中の品質も確かめる

テストは、製品が完成した後だけで行うものではありません。ウェーハの状態、切り分けたダイ、組み立てた後など、目的に応じて複数の段階で品質を確認します。

アドバンテストは、HBM向けに、ウェーハから切り分けた後のダイを試験するための技術も紹介しています。加工前に正常だったことと、加工後も正常に動くことは、分けて確かめる必要があるためです。[12]

この記事では仕事の流れに沿って企業を紹介していますが、実際の製造では、加工や接続の途中にも検査が組み込まれます。

日本企業のまとめ

AI向けの高性能な半導体は、計算する回路、データを供給するメモリ、それらをつなぐ実装技術を組み合わせて作られます。

その中で、日本企業は次のような仕事を担っています。

企業提供するもの・主な役割
東京エレクトロン回路形成を支える塗布現像・成膜・エッチング・洗浄などの装置
SCREENウェーハ表面などを処理する洗浄装置
ディスコ薄化や個片化を行う精密加工装置・ツール
レゾナック積層接続や熱伝導を支えるNCF・TIMなどの材料
TOWA樹脂の充填・成形を行うモールディング装置・技術
イビデン信号や電力の接続を担うICパッケージ基板
味の素グループパッケージ基板の層間を絶縁するABF
アドバンテストロジック半導体やメモリの動作を確かめるテストシステム

企業を調べるときは、何を作っているか、その製品はどこで使われるか、どんな難しさを解決しているかに注目してみましょう。

薄いチップを傷めずに加工すること、細かな配線をつなぐこと、接合部を保護すること、熱を伝えること、動作を確かめること。それぞれの技術を結び付けると、日本企業とAI半導体の関係を、具体的に理解できるようになります。

次に読む記事:

参考資料

企業の公式資料・技術解説を参照しています。確認日:2026年10月24日。資料中の計画や将来見通しは、完了した実績とは分けて扱っています。

  1. TSMC:CoWoS〈演算チップとHBMの集積、インターポーザー〉
  2. 東京エレクトロン:製品・サービス〈半導体製造工程と装置〉
  3. SCREEN:製品情報〈洗浄装置など〉
  4. ディスコ:技術説明会2025〈先端パッケージの加工、薄化、個片化〉
  5. ディスコ:Dicing Before Grinding加工〈薄化とチップ分割、割れの抑制〉
  6. レゾナック:Resonac Increases Capacity to Produce Materials for AI Chips〈NCFとTIMの役割〉
  7. TOWA:次世代HBM4パッケージング技術確立〈2025年3月21日、狭いすき間への樹脂充填〉
  8. イビデン:ICパッケージ基板〈微細配線、マイクロビア、AI向けGPUの用途〉
  9. 味の素ファインテクノ:電子材料事業の成長戦略〈2026年6月30日、ABFの位置と用途〉
  10. アドバンテスト:V93000〈AI・高性能計算向けSoCの試験〉
  11. アドバンテスト:T5503HS2〈HBMを含む高速メモリの試験〉
  12. アドバンテスト:Probo No.62〈HBMの個片ダイの試験〉

コメント

タイトルとURLをコピーしました