半導体は、シリコンの円盤であるウェーハの上に、薄い膜や細かな回路を作って製造します。その加工に使われるのが「プラズマ」です。
エッチングでは膜を取り除き、成膜では新しい膜を作り、アッシングでは不要になったレジストを除去します。同じプラズマを使うのに、どうして違う処理ができるのでしょうか。
その理由は、プラズマの中で生まれる粒子と、ウェーハ表面で起こす反応にあります。この記事では、プラズマの意味から発生の仕組み、粒子の役割、半導体製造装置での使い方まで、順番に解説します。
プラズマとは
プラズマは、電子やイオンが自由に動き回り、電気的に中性な原子・分子などと混在している状態です。 固体・液体・気体に続く「物質の第4の状態」とも呼ばれます。[1]
原子は、物質を構成する小さな単位です。分子は、複数の原子が結び付いたものです。電子は原子を構成する粒子の一つで、マイナスの電荷を持っています。
普通の気体では、多くの原子や分子は電気的に中性です。そこへエネルギーを与えると、一部の原子や分子から電子が離れ、プラスの電荷を持つイオンと、マイナスの電荷を持つ電子が生まれます。
このように、原子や分子が電荷を帯びることを「電離」と呼びます。半導体製造で利用するプラズマには、電離していない中性の粒子も多く含まれています。気体のすべてがイオンになるわけではありません。[2]
身近な例には雷や蛍光灯の放電があります。ただし、半導体製造では、装置の中でガス・圧力・電力などを調整し、加工に適した状態を作ります。
プラズマは熱い?
プラズマと聞くと、何でも溶かす高温の炎を想像するかもしれません。しかし、電子、イオン、中性のガス粒子が、いつも同じ温度になっているわけではありません。
半導体製造に使われる低温プラズマでは、電子の平均的な運動エネルギーが高い一方、イオンや中性粒子の温度はそれより低い状態を利用します。電子の持つエネルギーを、ガスの分解や反応する粒子の生成に使えることが特徴です。[3]
「低温」は、ウェーハが常温のままという意味ではありません。処理中の加熱や粒子の入射による温度上昇もあるため、ウェーハの温度は別に管理します。
発生の仕組み
ここでは、半導体製造で使われる、低圧の処理室にガスを流し、高周波電力を加える装置を例にします。処理室は「チャンバー」、高周波は「RF」とも呼ばれます。
基本的な流れは、次のとおりです。
- チャンバーを排気し、処理に必要なガスを供給します。
- 電極やコイルを通じて、ガス中の電子へ電気エネルギーを与えます。
- エネルギーを得た電子が、原子や分子に衝突します。
- 衝突により、電離や分子の解離が起こります。
- 生まれた粒子をウェーハ表面での加工に利用し、不要なガスを排気します。
「解離」は、分子を構成する原子同士の結び付きが切れることです。例えば酸素分子が分かれると、反応に利用できる酸素原子が生まれます。電離と解離は別の現象で、どちらも粒子の性質を変える重要な過程です。[4]
プラズマ中では、電子とイオンが再び結び付いたり、粒子が壁に達したりする過程も起こっています。そのため、処理中はエネルギーの供給とガスの流れを保ち、必要な状態を維持します。
なぜ光って見える?
電子との衝突でエネルギーを受け取った原子や分子が、元の低いエネルギー状態へ戻る際に、光を出すことがあります。これが、装置の中でプラズマが光って見える理由の一つです。[1]
ただし、加工を理解するときには、光の見た目に加え、どの粒子がどのくらい生まれ、表面へどう届くかを見ることが大切です。
ガスへ電気エネルギーを与えると、電子との衝突によって電離や解離が起こります。プラズマ中には、電子・イオンとともに、電離していない中性粒子も含まれています。

粒子の役割
プラズマによる加工では、電子・イオン・ラジカルの違いを押さえると、仕組みが分かりやすくなります。
| 粒子 | 主な特徴 | 加工で注目する働き |
|---|---|---|
| 電子 | マイナスの電荷を持つ、非常に軽い粒子 | ガスへ衝突し、電離や解離を起こす |
| イオン | 電荷を持つ原子や分子。ここでは主にプラスイオンを扱います | 電場で加速され、表面への衝突や反応に関わる |
| ラジカル | 不対電子〈対になっていない電子〉を持つ原子や分子 | 表面での化学反応に利用される |
ラジカルには電荷を持つものもありますが、この記事では、主に電気的に中性な反応性ラジカルを指して説明します。ラジカルという言葉は「電子が一つ離れてプラスになった粒子」という意味ではなく、イオンとは分類の観点が異なります。[5]
電子が粒子を生む
電子は電場からエネルギーを受け取り、ガス中の原子や分子へ衝突します。この衝突が、イオンやラジカルを作るきっかけになります。
加工される材料だけでなく、その手前にある「どんな粒子を生み出すか」という段階も、装置で制御しているのです。[4]
イオンが表面を助ける
プラスイオンは、ウェーハ表面付近の電場によって加速されます。衝突により表面の結合を弱めたり、反応を進めやすくしたりすることができます。
イオンの入射方向とエネルギーを調整することは、細い穴や溝を狙った形に加工するための重要な要素です。[6]
ラジカルが反応する
ラジカルは、材料との化学反応を進めるために使われます。例えばエッチングでは、表面の材料を、気体として取り除きやすい物質へ変える反応に関わります。
中性のラジカルは、イオンのように電場で直接加速することはできません。どの場所まで届くかは、粒子の移動や衝突、壁や表面での反応などによって変わります。
実際の加工では、これらの働きが組み合わさります。イオンが単に材料を叩き、ラジカルが独立して溶かすというだけではなく、表面で互いの作用を助ける場合があります。[4][6]
電子は粒子を生み出す衝突に、イオンは電場による入射と表面反応に、ラジカルは化学反応に関わります。実際の加工では、これらの作用を組み合わせます。

半導体での用途
プラズマは、どの処理でも同じ加工をする道具ではありません。使うガスや材料、粒子のエネルギー、表面の温度などを組み合わせ、必要な反応を起こします。
| 用途 | 主に処理するもの | 目指す変化 |
|---|---|---|
| エッチング | 回路形成のために加工する膜や基板材料 | 不要な部分を取り除く |
| プラズマCVD | 原料ガスと、膜を形成する表面 | 新しい薄膜を作る |
| アッシング | 加工後などに不要になった有機レジスト | レジストを反応させて除去する |
狙った部分を削る
エッチングでは、表面の材料を反応させ、排気しやすい気体の生成物へ変えます。プラズマを使う代表的な方法が、RIE〈反応性イオンエッチング〉です。
例えば、マスクで覆われていない部分へ反応する粒子を届け、イオンの入射も利用して加工を進めます。ガスと材料の組み合わせや、マスク・側壁の保護などを工夫し、必要な場所を狙った形に加工します。[6]
詳しい削れ方や、ウェットエッチングとの違いは、半導体エッチングの記事で解説しています。
新しい膜を作る
CVDは、原料ガスの化学反応を使って薄膜を作る方法です。この反応にプラズマを利用するものを「プラズマCVD」、英語の略で「PECVD」と呼びます。
プラズマで原料ガスを分解し、反応に使える粒子を生み出して、ウェーハ表面に膜を形成します。シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの形成に用いられます。
プラズマによって反応を助けるため、熱だけを利用する方法と比べ、成膜温度を低くできる場合があります。ただし、適した温度や得られる膜の性質は、材料や装置、条件によって変わります。[7]
レジストを取り除く
フォトレジストは、加工場所を決めるために使う材料です。役目を終えたレジストは、次の工程のために除去します。
アッシングでは、例えば酸素を使ったプラズマで、有機レジストを気体の生成物へ変えて取り除きます。加工した回路や下地の膜を保ちながら、不要なレジストを除去することが目的です。[8]
レジストの状態や下地材料によって適した方法は異なり、薬液による剥離や、残留物を除く洗浄を組み合わせる場合もあります。[9]
同じプラズマでも、膜を減らすのか、膜を増やすのか、役目を終えた材料を除くのかで、設計する反応は変わります。
エッチングは加工対象の膜を取り除き、プラズマCVDは新しい膜を作ります。アッシングでは、役目を終えた有機レジストを反応させて除去します。

装置の仕組み
プラズマを半導体加工に使うには、粒子を発生させるだけでなく、ガスの供給、圧力、表面の温度、排気なども管理する必要があります。
低圧のプラズマ装置を、主な部分に分けると次のようになります。
| 装置の部分 | 主な役割 |
|---|---|
| チャンバー | 外部の空気から区切り、加工する空間を作る |
| ガス供給部 | 処理ガスの種類・流量を調整する |
| 高周波電源・整合器 | 電力を供給し、装置へ伝わりやすい状態に調整する |
| 電極やコイル | 電子へエネルギーを与える電場を作る |
| ウェーハ台 | ウェーハを保持し、加熱や冷却を行う |
| 圧力計・排気調整部 | 処理室の圧力を測り、排気量を調整する |
| 真空ポンプ | ガスや反応生成物を排出する |
ガスを供給しながら排気することで、処理中の圧力とガスの流れを保ちます。真空は「何もない空間」を作るためだけでなく、反応に使うガスの環境を管理するためにも利用されます。[10]
高周波電源と装置の間には、整合器を設ける構成があります。整合器は、電力が電源側へ戻る反射を抑え、必要な電力を負荷へ伝えるための機器です。[11]
ここで紹介しているのは低圧装置の例です。プラズマには大気圧で使う方式もあり、すべての装置が同じ構造になるわけではありません。
電極式とコイル式
プラズマの発生方式には、CCP〈容量結合プラズマ〉やICP〈誘導結合プラズマ〉などがあります。[6]
- CCP:電極間に生じる電場を利用して、電子へエネルギーを与えます。
- ICP:コイルに流す高周波電流によって生じる誘導電場を利用して、電子へエネルギーを与えます。
これらは、プラズマを発生させる方式の名前です。一方、RIEは、反応性の粒子とイオンの作用を利用する加工方法の名前です。ICPを使うRIE装置もあり、同じ分類として並べないことが理解のポイントです。
ICP-RIEには、プラズマを生むコイル側の電源と、ウェーハ台側のバイアス電源を分ける構成があります。バイアスは、イオンがウェーハへ入射するときのエネルギーを調整するために使います。[12]
ICP-RIEの構成例です。ガス供給・排気・温度を管理しながら、プラズマを生む電源と、基板へのイオン入射を調整する電源を組み合わせます。

制御と課題
プラズマ加工では、必要な粒子を作り、適した状態で表面へ届けることが重要です。設定を変えると複数の現象が同時に変わるため、一つの数値だけで加工結果は決まりません。
条件を組み合わせる
| 調整する条件 | 主に関係すること |
|---|---|
| ガスの種類・混合比 | 生まれる粒子や、表面で進む反応 |
| ガス流量・圧力 | 粒子の衝突、移動、処理室内での滞在や排気 |
| プラズマ生成側の電力 | ガスへ与えるエネルギーや、粒子の生成状態 |
| 基板バイアス | 主にイオンの入射エネルギー |
| ウェーハ温度 | 表面での反応、物質の付着や離れやすさ |
例えば、プラズマを生む電力を増やしたときと、基板バイアスを変えたときでは、狙っている作用が異なります。装置によっては両者が強く影響し合うため、完全に独立して調整できるとは限りません。[12][13]
「圧力を下げれば必ずよくなる」「電力を上げれば必ず速くなる」と決めつけず、目的の膜や加工形状に合わせて条件を組み合わせます。
ダメージを抑える
イオンの衝突や反応性粒子、プラズマからの光などは、加工と同時に、材料へ望ましくない変化を与える場合があります。産総研の研究でも、光子・イオン・活性種が関わる微細加工ダメージが調べられています。[4]
削る速さだけでなく、残す膜や下地、完成後の電気的な特性も考える必要があります。粒子のエネルギー、処理時間、ガス、温度などを調整し、必要な加工と低ダメージの両立を目指します。
場所のむらを減らす
ウェーハの中央と外周で粒子の届き方や温度が違うと、膜厚や加工の深さがそろわなくなる場合があります。
そのため、プラズマの分布、ガスの供給・排気、ウェーハの温度分布などを合わせて設計します。面内の均一性も、プラズマ装置を選び、加工条件を整えるときの重要な観点です。[7][12]
プラズマのまとめ
プラズマは、電子やイオン、中性の原子・分子などが混在する状態です。半導体製造では、電子とガスの衝突を利用して、加工に使う粒子を生み出します。
その粒子が表面でどう働くかを設計することで、エッチング、成膜、アッシングなどに利用できます。処理の違いは、使うガス、材料、粒子のエネルギー、表面の温度などから理解できます。
装置を見るときは、ガスを入れる部分、電力を与える部分、ウェーハを保持する部分、排気する部分をつなげて考えてみましょう。プラズマは、こうした仕組みを組み合わせて使う、半導体の精密加工を支える技術です。
関連記事
- 半導体エッチングとは?:膜を取り除く方法と、加工形状の違い。
- 半導体の成膜工程とは?:CVD・PVD・ALDを使った薄膜形成。
- フォトレジストとは?:加工場所を決める材料の仕組み。
- 半導体製造工程の記事一覧:各工程の役割とつながり。
参考資料
企業・研究機関・学術出版物などの公開資料を参照しています。確認日:2026年10月25日。装置構成や条件による違いがあるため、本文では代表例として説明しています。
- サムコ:プラズマとは〈電離、再結合、発光の基本〉
- 東京エレクトロン:プラズマ研究者が語る研究開発環境〈半導体製造の弱電離プラズマと用途〉
- Reviews of Modern Plasma Physics:Developments in low-temperature plasma applications in Asia〈低温・非平衡プラズマの電子温度と重粒子温度〉
- 産総研:半導体の微細加工ダメージを診る〈電子衝突、イオン・活性種の作用、加工ダメージ〉
- IUPAC Gold Book:radical〈ラジカルと不対電子の定義〉
- アルバック:ドライエッチングとは〈RIE、CCP・ICP、反応生成物の排気〉
- サムコ:プラズマCVD装置〈成膜の仕組み、材料、温度、均一性〉
- SCREEN:レジスト剥離〈酸素プラズマと有機レジストの反応〉
- SCREEN:半導体製造プロセス〈レジスト除去と洗浄を含む工程の流れ〉
- サムコ:真空の必要性〈低圧環境、粒子の衝突とガスの管理〉
- アルバック:プラズマ発生用電源・RF電源/整合器の取扱説明書〈高周波電源・整合器、反射電力〉
- Oxford Instruments:ICP Etching〈コイル側と基板バイアス側の制御、低圧・均一性〉
- Oxford Instruments:Reactive ion etching〈単一RF源でのイオン密度とエネルギーの関係〉


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